耳よりハンター

教わらないものは学ばない

県立赤穂養護学校進路指導部発行の進路情報(平成10年10月発行)を紹介します。

特別支援学校になったのが、平成15年ですから随分昔の記事ですが。

ある中学部のお母さんから「どうしたら就労につながるのですか」と聞かれた。

学校生活終了後は地域で企業に就労した生活をさせたいが、今の状況を見ていると難しいと思うし、どうすればよいのかという思いなのでしょう。

手塚直樹著「知恵おくれの人の職業生活を進める条件」(光生館発行)から、この問いに対するヒントを紹介します。

養護学校を卒業して企業に就職する、そして60歳の定年まで40年以上働くのです。

企業に就職しない人も、やはり40年以上授産所などで働くのです。生きていくのは本人です。

まず本人が力を蓄えなければなりません。働くうえに必要な能力とは何か。企業で働く人に焦点をあてながらみていくことにしましょう。

働くうえで最も必要なことは、「働く意識をもっていること」ことです。働くということの理屈は特にわからなくてもいいのですが、働くことに向かっていく意志を持っていること、そうした意識のあることがなんといっても一番大切です。

第二は、「意欲・体力・持続力」です。「意欲」は働くことを進めていく基本を作ってくれます。

意欲を持って働く人は確かに伸びていきます。次は「体力」です。知恵おくれの人は頭脳より身体で勝負します。健康な身体は働くうえでの資本です。そして、次に大切なのが「持続力」です。企業で働くということは、1日8時間働くということであり、暑い日も寒い日もコンスタントに働き続けるということです。こうした持続する力を持っていないと、現実としてサラリーマン生活は成立しないことになります。

第三は、「生活習慣」といわれるものです。生活習慣というのは、職場での生活の基本習慣であり、いわば身辺処理能力ともいえるものです。

簡単に要約すれば①挨拶②返事③身だしなみ④清潔感を持つこと、ができるということです。

生活習慣というものがなぜこんなに大切なのかは、次のような大きな理由があるからです。

第1は、彼らを雇用した事業主は、「知恵おくれを承知で採用したんのだから、多少生産能力が低いのは仕方がない。しかし、サラリーマンになって給料をもらうのに、自分のことができないということでは本当に困る」という思いがあるからです。 

この点については、事業主はかなり厳しい見方をします。実際としても、生活習慣ができている人は、たとえ知能指数が低くても有能な従業員に育っていくものです。

第2は、とても重要なことですが、小さいときからの生活習慣を身につけていく学習のプロセスは、一つの作業を遂行していく学習プロセスと同じであるということです。

たとえば、「ボタンがきちんとはめられる」という一つの学習は、「ボタンがはめられないとおかしいわよ」という動機付けがあり、「僕もはめられるようになりたい」という自覚があり、「こうしてはめるのよ」という指導と、はめるようにする努力の経過があり、「僕、できたよ」という完成のよろこびと「よくできたね」というほめことばがあり、それが自信につながっていくのです。

この「動機づけ⇒自覚⇒指導⇒努力の経過⇒完成の喜び⇒ほめのことば⇒自信」という経過は職場の中で、一つの仕事を身につけていくプロセスと同じなのです。

ですから、生活習慣の一つ一つがきちんとできる人は、完成感と自信を体が知っているということです。「努力をすれば必ずゴールに到着し、ほめられるのだ」ということを、体験として身体が知っているということなのです。

ですから、職場のなかでどんなに厳しい指導をしても、それに耐えて一人前になっていくことができるということです。ゴールの見えない努力は、そう長続きしないというのが人間というもので、それは知恵おくれの人も同じです。

第3は、そうした生活習慣を身につけていく努力のプロセスの中から作業への意欲というものが出来上がっていきます。

知恵おくれの人は、「教わらないものは学ばない」といわれています。

教えないかぎり身につかないのです。家庭、学校、施設等での、現在にいたる教育、訓練の集積が、現に本人のもつ意欲や諸能力だといえるのです。

この、現に発揮可能な本人の諸能力が、職業生活を進める第一の条件であるといえます。

著者は、財団法人鉄道弘済会に勤務、同会が設置経営する「総合福祉センター弘済学園」の精神薄弱者教育の理論と実践を学んだあと、「日本理化学工業株式に勤務。知恵おくれの人たちと共に3年間働く。この経験を「知恵おくれを伴う障害者の雇用と職場適応}として出版。

現在では死語となっている言葉が出てきますが、時代の違いとご理解ください。

                                            文責:N

 

2023年5月26日

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